「ベター・コール・ソウル」S4E6「ピニャータ」キムはなぜあの決断をしたのか

S4E6「ピニャータ」でキムはある重大な決断をしましたが、彼女はなぜそうしようと思ったんでしょうか? ジミーを傷つけることがわかっていながらキムはなぜこの決断をしたのか、私なりにまとめてみました。長文注意です。

以下「ベター・コール・ソウルS4E6までと「ブレイキング・バッド」のネタバレあり。未見の方は注意!

今回のエピソードで、キムが大手弁護士事務所シュワイカート&コークリーのパートナー弁護士になると決めたことについて、Redditはじめ海外では「キムにはガッカリした」「ジミーを見捨てるなんてひどい女だ」「結局キャリアのほうが大事なのか」「ミニ版スカイラー」という声がちらほら…というか結構多かったです。うへぁ…。今までみんなキム大好きだったのに…。もちろんそうじゃない人もいっぱいいるんですけども。

実は私もS&Cを訪ねたキムを観て「えっ!キム、なんで…」と思ったクチなのであんまりエラそうに言えないんですが、よくよく考えてみたらあの決断も無理はない…と言うよりも、むしろ他に選択肢はなかったと思うようになりました。

…というわけで以下私なりの考えを書いてみたんですが、クッソ長くなってしまったので「製作者さんが言ってることだけ知りたいんじゃ」って方はすっ飛ばしてこちらをどうぞ。

これまでの経緯とキムの置かれた状況を考えてみた

S4E3「みんなめでたし」で支店のモデルを見せられた時のキムの全然浮かない表情

シーズン3で、無理に無理を重ねた挙げ句交通事故を起こしたキムは、自分の仕事のやり方を見つめ直し、体を治すことに専念しました。

ところがいざ仕事に戻ってみると、メサ・ヴェルデは今後もどんどん拡大する気満々の様子。これをキム一人でこなそうと思えば、また事故前と同じことになってしまうのは目に見えています。

そのあとキムが裁判所に通うようになったのは、「このままでいいのか?」「これが自分のやりたかったことなのか?」という疑問を抱いたからじゃないでしょうか。その流れで無料弁護を引き受けるようになったキムは、人助けこそが自分がやりたかったことで、かつ、自分がそれを「好きで、得意だ」と気づいたんだと思います。でも、目下のところジミーとキムの生活費の多くはキムに頼っているはずなので、メサ・ヴェルデを失えば二人とも経済的に困窮するのは避けられそうにありません。ただでさえチャックの死で傷ついているジミーのためにも路頭に迷うことはできない。けれど自分の生きがいも諦めたくない…。

こうなったら選択肢は一つしかない気がします。キムはS&Cに入ることを急に思いついたわけではなく、ずっと考えていたんじゃないでしょうか。

それともう一つ、キムは自分がジミーと共にチャックにしたことを「病人を痛めつけた」と後悔していましたし、チャックの死に多かれ少なかれ責任のようなものを感じていると思います。

S3E7「やり繰り」より。「私とジミーは聴聞で病人を痛めつけた」

これはあくまで私の考えなんですが、ある意味チャックの自殺の遠因となった(とキムが感じている)メサ・ヴェルデの仕事を続けることに、後ろめたさのようなものを感じている部分もあるかもしれません。

また、チャックへの贖罪の意味で無料弁護を引き受けるようになったのかもしれない、とも思ったり…。

いずれにせよ、チャックの死がジミーだけでなくキムにも大きな影響を与えたことは間違いないと思います。

【UPDATE】

キム役のレイ・シーホーンインタビューを読む限り、上の考察でだいたいあってるようです。

曰く「彼女は自分が二人の生活を経済的に支えなければと思っている。ジミーが携帯ショップでいくらもらっているのかも知らない」「(S&Cに入ることにしたのは)彼女は自分自身を救うことが二人の関係に良いことだと思っているから」「キムはメサ・ヴェルデを不正な手段で得たことについて罪の意識を感じている」などなど。

ただ、無料弁護を始めた理由については「もっと人の役に立ちたい」とか「情熱を取り戻したい」という気持ちももちろんあると思いますが、レイさんはもう一つ別の面を挙げてました。「キムは『10000もの銀行をオープンする手伝いなんか別にしたくない』という自分の本当の気持に向き合っていないと思う。大企業の弁護士として大金を得るかたわら公選弁護人として働く人は実際珍しくないけど、彼女は自分の感情と向き合うのを避けるために常に自分を忙しい状態にしている

キムが頑なに「ウェクスラー&マッギル」を避けるのはなぜか

ではなぜ「ウェクスラー&マッギル」ではダメなんでしょうか。

キムが「資格停止処分になったことがある弁護士」と起業するのをメサ・ヴェルデが喜ぶとは思えませんが、そのせいでキムをクビにすることもないような気がします。でも、前述の通りメサ・ヴェルデの仕事はキム一人の手には負えなくなってきている状況です。そして、そのこと以上に、そもそもキムは自分がジミーと起業することはジミーのためにならないと考えているんじゃないでしょうか。

以前(シーズン2で)ジミーに「二人で独立しよう」と誘われた時、キムは彼に「真面目な弁護士になるのか個性的な弁護士になるのか?」と聞いていました。その時のジミーの答えはこう。

俺のやり方で出来ないなら何の意味もない。他の人と同じようにやろうとしてもいつも突然ダメになる。(略)誰かが望む俺になろうとしてきた。ずっと前から。まずはチャック。そして君だ。君のせいじゃない。俺が選んだ。でも新しい事務所では本当の俺としてやるつもりだ。 だから…個性的な弁護士だ。

S2E7「風船人形」より。「真面目な弁護士?それとも個性的?」
「本当の俺としてやるつもりだ」

…でも、キムが仕事に「ジミーのやり方」を持ち込むことを許容できるとは思えません。プライベートでバーで誰かを引っ掛けるのとは訳が違いますし。かといって「ジミーのやり方」を否定すれば、ジミーは「本当の俺」でいることができないし、またもや「誰か(この場合はキム)が望むように」行動することになってしまいます。そして、もしそうなればジミーの忍耐が長くは続かないこともキムは知っています。

それに、「ジミーのやり方」のせいで何か問題が起こった時、自分も一緒に巻き込まれて落ちていく訳にはいかない。そうなれば自分のキャリアに傷がつくだけでなく、ジミーを助けることができなくなるからです。だから別々の事務所を持ち、「お互い自由に。でも要所要所で助け合う(※S2E7「風船人形」でのキムのセリフ)」ことがベストだと、キムは考えたんだと思います。

そもそもキムはこの時に「ウェクスラー&マッギル」を立ち上げるつもりはない、とジミーにハッキリ意思表示したわけですから、逆になぜ今になってジミーが再びその夢を追い始めたのか、なぜそれをキムも受け入れると思ったのか…のほうが謎だと言えるかもしれません。(ていうかこの二人、なんでこう…話し合うってことをしないんでしょうね?)

【UPDATE】レイ・シーホーンも前出のインタビューで「ほんとに話し合えばいいのに!」と言ってました。ですよねー? ただ、ジミーもキムもお互い「相手のほうがもっと辛い時に自分の悩みなんか打ち明けたりするべきじゃない」と、良かれと思ってそうしてるんだと思う、とも言ってました。)

また、今回のエピソードで、キムが自分からS&Cに行ったにも関わらず「向こうから誘われた」とジミーに言ったことを「ずるい」「卑怯だ」と思った人も少なくなかったようですが、これも自分を守るためというよりも、少しでもジミーを傷つけたくなかったからじゃないかと思います。

ただ、嘘には違いないので、このことがのちのち影を落とさないといいんですが…。

キムの選択はジミーを支えるため

このエピソードの脚本を書いたジェニファー・ハッチソン氏は、キムがなぜこのタイミングでS&Cに行くことを決めたのかについて、ジミーがセラピストのところに行かないと決めたことがきっかけになったと言っています。以下抜粋&意訳してみます。

キムは、チャックを失ってからのジミーの行動が彼の人間としての成長に役立つことはないとわかっているし、ジミーは逃げているだけだと気づいてもいる。なんとか健全な方法で問題に向き合い、乗り越えてほしかったからこそ、彼にセラピストと話すよう勧めた。

でもジミーはキムの希望に背いても『自分に一番良いと思うこと』をすると決めてしまった。ジミーがそう決めた以上、キムは彼の決断を尊重しなければならない。であれば、なぜ彼女も同じことをしてはいけないのか?ジミーの決断は、ある意味キムの背中を押すことになったと思う。

また、そもそもなぜキムがこの決断をしたかについては、こんなふうに言っていました。

私は、愛する人が辛い目に遭っていてそれを支えたいと思う時、ベストパートナーでいるためにはまず自分自信がベストな状態でいなければならないと思う。実際、私と(キム役の)レイ(・シーホーン)はこの点について具体的に話し合った。キムは身を粉にして働く訳にはいかない。なぜなら彼はジミーのために「強く」なければならないから。だからそうあるために一番良い選択は、彼女にとって良い仕事環境を作ることだったんだと思う。

こんなにジミーのことを考えてるキムがなぜ「ブレイキング・バッド」ではジミーのそばにいないのか? キムの今後について、Redditではホントにびっくりするほどいろいろな「予想」が出ています。どれもありそうな予測で読んでてとてもおもしろいんですが、個人的には英語のことわざにある「最後の藁一本がラクダの背を折る」状態なんじゃないかなと思ったり…。二人が離別することになるなら、原因は今までじわじわ積もり続けた「藁」のような気がしています。

キムがジミーにこの決断を伝えた時のあるセリフについてはこちら↓
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