「ベター・コール・ソウル」S4E7「馬鹿な真似」冒頭のモンタージュシーンは服の色まで計算されている

S4E7「馬鹿な真似」は美しくも切ないモンタージュで始まりました。これ、もう映画・ドラマ史上に残る傑作シーンと言っていいんじゃないでしょうか(前のめり)。

以下、このシーンの曲や撮影裏話とか、もろもろまとめてみました。まーた長くなっちゃったけど、良かったらお付き合いください。

以下「ベター・コール・ソウルS4E7までと「ブレイキング・バッド」のネタバレあり。未見の方は注意!

いやぁーーーオープニング本当にすごかった…。自分でも引くくらい泣きました(泣きすぎていったん再生止めた)。長いこと誰かと一緒にいてだんだん気持ちが離れていくという経験がある人には、切ない通り越して痛かったんじゃないでしょうか。
ほぼセリフがないのに何が起こっているのか(痛いほど)わかるだけでもスゴいのに、その上、とにかく美しい。左右の画面の色合いや角度が合わせてあったり、別々のシーンかと思わせておいて同じシーンだったり(上の写真のシーンとか…痺れました)。曲もとても良かったし…。全てが最高すぎて何度も繰り返し観ました。何度観ても素晴らしい!ていうか切ない!

スプリットスクリーン(分割画面)にしたのはピーター・グールドのアイデア

このエピソードの「Insider Podcast」によると、このシーンを画面を分割して見せるようにしたのは製作のピーター・グールド氏のアイデアだそうです。グールド氏は「僕のアイデアかどうか覚えてないけど」と謙遜しつつ、 「このシーンについて素晴らしいと思うのは、このアイデアが『よし、なにか技術的におもしろいことをやってやろう』ではなく、時間と共に変わっていく関係をどう見せるか?というところからきているということ」と言っていました。必然的にこうなったんですねー。
また、S4ではあまり現場に関わっていないというヴィンス・ギリガンは「脚本を読んですごく良い!と思ったけど、それより僕がこれをディレクションしなくてすんで良かった!と思った」と言って笑いを誘っていました。予算的にもスケジュール的にも技術的にも、本当に難しい、大変な撮影だったようです。

左右の画面の関連性がすごい

左右の画面の差し色(一番目立つ色)が同じだったり、各シーンでジミーとキムの服の色が似ていたり、左右の画面が何かと関連しているのは、もちろん偶然ではなく全て事前に計算されたものだそうです。

本当に細かいところまでこだわっていて、例えば左右のトイレの鏡の角度がキチンと合っていたり、キムの握っているボールとジミーが着ているジャージの色が同じ緑だったりします。

左右で角度が揃っていたり…
左右の差し色が同じだったり…

このシーンの編集を担当したのは「ブレイキング・バッド」でもエディターを務めて編集賞を多数受賞したスキップ・マクドナルド氏。

彼のインタビューによると、一番苦労したのはジミーがジュースを作っていて、反対側でキムがギプスを取るシーンだそうです。意外!なんでもジューサーとギプスを削る歯のタイミングを合わせるが大変だったとか…。ええ…。映るのほんの一瞬なのにタイミング合わせてるとか、こだわりがホントにすごいですね。

二人が着ている服の色が変わっていく

これはポッドキャストではすっごいサラッと語られてたんですが…。

このシーンでは衣装も重要な意味を持っていて、上で書いたとおり二人が着ている服の色合いが似通っている場面が多い…というのは観てわかるとおりなんですが、それだけでなく「モンタージュ全体を通じて衣装の色がシフトしている」とのこと。ん?と思って改めて観てみたら…二人の着ている服の色がだんだんと暗くなっています

最初はまあまあ明るい色の服を着ている二人
だんだん濃い色になり…
最後はほとんど黒に近い色に
キムだけ見ても同様に淡い色から
だんだん濃い色になり…(スクショだとわかりにくいけど紺色)
最後の方は真っ黒に。繰り返されるシーンのほとんど全てでこうなっていました。スゴい。

二人の関係の変化が色でも表されていたんですね。

また、このモンタージュシーンではキムが何度か同じ服を着ていますが、このエピソードのディレクター デボラ・チョウさん曰く、これはキムを演じているレイ・シーホーンに「キムはそんなにたくさん服を持っていない」と言われたからだそうです。「彼女は本当に”働く女性”で、ショッピングを楽しむような時間はないから」。
「ベター・コール・ソウル」ではこのシーンに限らず他のキャラクターも何度も同じ服を着ていたりします。そのへんもリアルでとても好きです。

このシーンの「Something Stupid」は「ベター・コール・ソウル」オリジナル

モンタージュ全体を通じて流れていたのはフランク・シナトラと彼の娘ナンシーのデュエットで有名な「Something Stupid(邦題:恋のひとこと)」。このエピソードのタイトルにもなっていますが、歌っているのはイスラエルのバンド ローラ・マーシュ(Lola Marsh)で、「ベター・コール・ソウル」のためにオリジナルで録ったものだそうです。

なぜ元の曲を使わなかったのか、なぜローラマーシュになったのか、「ベター・コール・ソウル」「ブレイキング・バッド」のミュージック・スーパーバイザー トーマス・ゴルビッチ氏がポッドキャストで語っていました。
(ちなみにこの方のお名前、私はゴルビックだとばかり思ってたんですが、本人が「名前に『ビッチ』が入ってるのちょっと面白いでしょ」と言ってました。で、ホストのクリスさんがすかさず「Yeah Bitch!」って叫んでたの好き)

もう一つの候補はルー・リードの「パーフェクト・デイ」だった

当初他にもいくつか曲の候補があったそうなんですが、その中の一つがルー・リードの「Perfect Day」。ただ、映画「トレインスポッティング」ドラマ「フィア・ザ・ウォーキング・デッド」ですでに使われていたこともあり、また、グールド氏が「Something Stupid」を強く推したため、見送ったそうです。

調べてみたら「パーフェクト・デイ」の歌詞もなかなかに破壊的でした…。(こちらのブログがわかりやすかったです。ルー・リードと完璧な1日 | PlusBlog
このシーンでこれ流れるのも結構無理…。

ローラ・マーシュに決まった理由

ところが、シナトラ版「Something Stupid」を使うにはいくつか問題があったそうです。まず、モンタージュシーンは5分程度あるのに曲の長さが2分くらいしかなかったこと。そしてなんといっても曲の使用料が桁外れだったこと。(もう一つ、ゴルビッチさんは「親子でラブソングっていうのがちょっと気持ち悪いっていうか…当時はそれでよかったんだろうけど…」とも言ってましたw)

そこで、オリジナルで(カバーバージョンを)作ろうという話になったそうです。

その頃すでにピクチャーロック(編集がほぼ完了した状態)になるまで2週間程度しかなかったため、短い期間で、映像に合わせて曲を作ってくれて、しかも曲の著作権はソニーに帰属する…という難しい条件でやってくれる人を探すことに。何人かの知り合いに声をかけてみたところ、意外にもたくさんのデモが届けられたそうで、そのなかから、なんとか二組に絞ったのだとか。

ローラ・マーシュ公式サイトLola Marsh – Official Website

そのうちの一組がローラ・マーシュでした。Yael Shoshana Cohenさんと Gil Landauさんのデュオバンドです。ゴルビッチさんと二人はスカイプで長時間やりとりして細部まで話し合ったそうですが、二人はイスラエルのテルアビブに住んでいるので、現地では朝4時になってしまったこともあったようです。

そしてブラッシュアップしてもらった作品を聞いてみたら「要望のすべてが反映されていた」とのこと。とってもこの二人を褒めまくっていました。

もう一方のバンドについても「名前は言えないけどとても良かった」のだそうで、またどこかで使えたらと思ってる、とのこと。ブルーレイ特典にぜひ…!

ただ、この二人のバージョンの「Something Stupid」、まだどのオンラインストアにもないんですよね…。下のご本人たちのツイートにも何人もの人が「この曲どこで買えるの?」と聞いてますが返事なし(たぶんソニーとの契約的な何か)。ソニーさんなぜ放送日までに買えるようにしておかなかったし…あればすっごい売れたはず!出たら速攻買います!

「Something Stupid」の歌詞が切ない

ローラ・マーシュ版も歌詞はオリジナル(フランク・シナトラ版)と同じみたいです。ジミーの気持ちだと思うと涙なしに聞けない…(泣
以下、歌詞 & クソ訳で恐縮ですが日本語訳もつけてみたので参考程度にどうぞ。

I know I stand in line until you think you have the time
To spend an evening with me
君が僕と一緒に夜を過ごしてもいいなと思ってくれるまで、
列に並ぶことになるのはわかってる。
And if we go some place to dance, I know that there’s a chance
You won’t be leaving with me
もしどこか踊りに行けたなら、君は僕を置いて帰ったりはしないかも。
Then afterwards we drop into a quiet little place
And have a drink or two
そのあとどこか静かで小さなお店に寄って、
お酒を一杯か二杯飲もう。
And then I go and spoil it all by saying something stupid
Like “I love you”
でもきっと僕は馬鹿なことを言って台無しにしてしまうんだ。
「愛してる」なんてことを。

I can see it in your eyes that you despise the same old lies
You heard the night before
君の目を見ればわかるよ、お決まりの嘘にはうんざりしてるって。
昨日の夜も聞いたようなやつさ。
And though it’s just a line to you, for me it’s true
And never seemed so right before
君にとってはただのセリフだけど、僕にとっては真実。
こんなに本当だと思えたことは今までなかった。

I practice every day to find some clever lines to say
To make the meaning come through
毎日なにかうまいセリフはないかと探してるんだ。
この気持を伝えられる言葉を。
But then I think I’ll wait until the evening gets late
And I’m alone with you
夜が更けて二人きりになれるまで待とうと思ったんだけど
The time is right, your perfume fills my head, the stars get red
And, oh, the night’s so blue
いざその時がきたら、僕の頭は君の香水でいっぱい。
星は赤く、夜はとても青い。
And then I go and spoil it all by saying something stupid
Like “I love you”
そして僕は馬鹿なことを言って台無しにしてしまうんだ。
「愛してる」なんてことを。

The time is right, your perfume fills my head, the stars get red
And, oh, the night’s so blue
いざその時がきたら、僕の頭は君の香水でいっぱい。
星は赤く、夜はとても青い。
And then I go and spoil it all by saying something stupid
Like “I love you”
そして僕は馬鹿なことを言って台無しにしてしまうんだ。
「愛してる」なんてことを。

I love you
I love you
I love you
愛してる
愛してる
愛してる

【UPDATE】ひとつ書き忘れてたので追記。このシーン、ヘッドホンで聞くとちゃんと画面に合わせて男性の声が右から、女性の声が左から聴こえるようになってます。さいこう…。

このシーンでどれくらいの時間が経ったのか?

時間の経過と二人の関係の変化をとても美しく描いたモンタージュでしたが、はたして劇中の時間はどれくらい経ったんでしょうか?ちなみに私はS4時点で2004年くらいだと思ってたんですが(どっかに書いた気がする…すいません)、どうもまだ2003年だったようです。

モンタージュシーンの最初の方、ジミーが携帯ショップで母の日セールをやっているのでこの時点で2003年5月11日前後。最後のほうは、ジミーの「定期報告」の書類によると2004年1月12日のようです(ジミーの毎月の面接が終わったようなので「免許戻るんだ!」と思ったんですが、まだあと一ヶ月あるみたいですね)。

Mother’s Day Deals
January 12, 2004

5月→1月ということは大体8ヶ月くらいですが、この前後もありますし、前出の「Insider Podcast」ではデボラさんが「10ヶ月」と言ってたので、そう思ってよさそうです。

S1E1「駆け出し」より。ジミーが受け取った小切手の日付が「05/13/2002」

ちなみに「ベター・コール・ソウル」最初のエピソードは2002年5月13日から始まっているので、S1〜S4E6までの出来事はほぼ1年の間に起こったことになります。1年ですごいいろいろあったな…。

このエピソードのラスト&今後のキムについて

…というわけで、このモンタージュシーンだけでもジミーとキムの関係がかなり危うくなってきたのが見て取れましたが、このエピソードについてのインタビューを読む限り、ここからS4ラストまではさらにいろんな事が起こる & かなりキツイ展開になりそうです。

レイ・シーホーンによると、エピソード最後でキムがヒューエルを助けようとするのは「愛する男を助けるため」というよりも、実際にヒューエルへの求刑が不公平だと感じたから。黙って見過ごすことが出来なかったようなんですが、この決断がキムの今後に大きく影響しそうですね…。

それと、ちょっと話がそれますが、ジミーを「ゲス(scambag)」呼ばわりした検察官について。

左はS2E7「風船人形」より。

彼女がジミーのことをなぜこんなに悪く言うかというと、実は彼女、マイクとトゥコの一件の時にジミーに会っているんですね。あの時ジミーはトゥコの銃を「空から鳥が落としたかも」とか言ってました。それで良い印象を持っていなかったようです。やむなし…。

以下、S4E7以降の展開に関わるかもしれない内容があるので見たくない方はスルー推奨!

また、別のインタビューによると、キムの過去に何かあるような感じも…?(Redditではかなり以前からその可能性を挙げてる人がいました)。今後のエピソードでキムの過去の「何か」が出てくるのかもしれません。以下抜粋&すごく意訳。

ピーター・グールド:ジミーはキムのおかげでソウルにならずに済んでいたという見方もあるけど、僕は、S4に入ってから特に、たぶんキムがいなければジミーがソウルになることはなかったと思う。
レイ・シーホーン:彼女の『超えてはいけない一線』はとても変わってる。詐欺を働くのが彼女にとって未知の領域じゃないだけでなく、他の人よりよく知っているふうでさえある。ジミーのことを詐欺師であるにもかかわらず好き、ってわけではなさそう。彼女の過去にはなにかあるのよ。

レイ・シーホーンは「ブレイキング・バッド」になぜキムがいないのか、その理由をもう知っているそうです。うわあああ。震えながらも続きを楽しみにしてます。あと3話…!