「ブレイキング・バッド」のウォルターと「ベター・コール・ソウル」のヴェルナーが似ている理由

ベター・コール・ソウル」シーズン4で登場したドイツ人技師ヴェルナーさん。
彼と「ブレイキング・バッド」の主人公ウォルター・ホワイトが似ている(けどすごく違う)と、海外ファンの間で話題になりました。

以下、「ブレイキング・バッド」全シーズンと「ベター・コール・ソウル」シーズン4までのネタバレありです。未見の方は注意!あと、また長くなっちゃったので長文注意!

ウォルターとヴェルナーは性格的には正反対ですが、いくつか共通点がありました。

まず、二人ともそれぞれの専門分野においてはかなり優秀な人物です。にも関わらず、どちらもいわゆる「成功」には至らなかった。そして、そのことにある種の劣等感を抱いているようです。ウォルターはグレイマターを安値で手放したことを後悔し続け、ヴェルナーは彼の父親のように胸を張れる仕事の経験がないのを苦々しく思っています。さらに、二人とも大金を稼ぐために犯罪に手を染めました。

また、こういう大きな共通点だけでなく、他にもいろいろ二人を比較するような設定・場面がありました。以下、順を追って挙げてみます。

ヴェルナー・ハイゼンベルク

ウォルターの偽名「ハイゼンベルク」は、第二次大戦中、ヒトラーの下で働いていたドイツ人物理学者ヴェルナー・ハイゼンベルクからきています(「ブレイキング・バッド」S4E4「厄介な存在」でハンクがそう言ってます)。

ヴェルナー」・ハイゼンベルクです。

「ハイゼンベルク」-「ブレイキング・バッド」S1E6「最凶のワル」より
「ヴェルナー・チーグラーだ」-「ベター・コール・ソウル」S4E5「危ない橋」より

海外掲示板Redditではヴェルナーさん初登場回(S4E5「危ない橋」)で早々とこの点を指摘した人もいましたが、当初は多くの人が「深読みじゃね?」という反応でした(私もな!)。

ところが、「ソウル」シーズン4終盤に近づくと逆に「この名前の一致は意図的なものだ」と言う人が増えてきました。他にもいろいろそれっぽいネタが出てきたからです。

二人に関連するある「文字」が似ている

S4E9「おさらば」にも二人の関連を示唆している…と取れるシーンがありました。

このエピソードで、ヴェルナーたちは爆破する岩にドイツ語で「おさらば(Wiedersehen)」と書いてましたが、この文字が「ブレイキング・バッド」シーズン5でウォルターが自宅に戻った際、壁に大きくかかれていた「ハイゼンベルク(Heisenberg)」という字に似ています

どちらもドイツ語で、スプレーで書いたような黄色の文字。「ベター・コール・ソウル」S4E9「おさらば」より
「ブレイキング・バッド」S5E9「汚れた金」より

ヴェルナーとウォルターの言動が似ている

そして、シーズン4最終話「勝者」。このエピソードでヴェルナーはあえなく脱走に失敗し、マイクに捕まってしまいます。その彼が「自分が思っているより事態は深刻なのだ」と悟ってからの言動と、「ブレイキング・バッド」シーズン3でいよいよマイクに殺されそうになったウォルターの言動がとてもよく似ていました

フリングさんと話させてくれ。全て説明する。彼に納得してもらえるように。
(略)
金はいらない。全部返す。
誰にも言わない誓うよ。

メスはただで作る。
二度と問題も起こさないと誓う。
ガスと話させてくれ。そうすればわかってもらえる。
「ブレイキング・バッド」S3E13「向けられた銃口」

二人とも「金はいらない」といい、問題は起こさないと誓い、「ガスと話をさせてくれ」と頼み、「(自分が話せば)ガスを”理解”させられる(make him understand)」と言っています。

同じような状況に置かれているのだからセリフが似るのも当然かもしれませんが、このあとマイクが誰かに電話をかけることを許可するところも同じです。(電話の理由は全然違ってましたが…。ヴェルナーは愛する妻を救うため、ウォルターは自分を救うためでした。)

また、ヴェルナーが妻を助けようと電話口であえて悪者を演じるシーンで、「ブレイキング・バッド」終盤、ウォルターがスカイラーに電話するシーンを思い出した人も多かったようです。

ヴェルナー「黙って聞け!」「私は全然会いたくないんだよ!」うう…。これが最後の会話とか…。
ウォルター「この役立たずのバカ女が!」
「ブレイキング・バッド」S5E14「オジマンディアス」より

ゲイルとの類似を指摘する人も

ウォルターやヴェルナーと同じくゲイル・ベティカーさんも、元々仕事では優秀なのに犯罪に手を染め、自らの死を招くことになりましたが、ヴェルナーの最期のシーンを観て、ゲイルがウォルターに暗唱して聞かせたウォルト・ホイットマンの詞「天文学者の講義を聞いた時」を思い出したという人がかなーり多かったです(Redditで)。

(略)ついに私は席を立ち、人知れず外に出て、神秘的な夜の空気の中をさまよい、 そしてときおり完全なる沈黙の底から星を見上げた
「ブレイキング・バッド」S3E6「追いつめられた二人」より(吹替版)

二人の違いは「建設」と「破壊」

いろいろと共通点があるウォルターとヴェルナーですが、逆に二人の違いに注目する人もいて、Redditではこんな図↓にまとめる人まで表れました。

S4E9「おさらば」の時点でアップされたRedditのスレッド「Walter Virgin vs Chad Werner」。イラストはimgur

これは昨年アメリカで流行した「Virgin vs Chad」というネットミームのパロディで、ウォルターとヴェルナーを比較しているんですが、わりと一方的にウォルターに厳しい内容になってます。いや、全部当たってるけど…。
以下意訳です。

非モテ科学者(ウォルター) リア充エンジニア(ヴェルナー)
シリーズを通じて泣いてばかりいて、自分の思い通りにならないと癇癪を起こす。 自分の死を悟っても涙一つ流さない。それどころか罪のない妻の命を救う。
マイクに軽蔑されている。酒をおごったら殴られた。 マイクの飲み友達。二人とも共に過ごすのを楽しんでいる。
ファーストフード店に2日も座り込んだ挙げ句、ガスは自分とは働きたがらないと知る。それでも取引をせがむ。 ガスに請われて仕事の面接を受け、良い印象を与えてその場で雇われる。
自分をハイゼンベルクと呼び、それが自分をカッコよく見せると思っている。 実際に名前がハイゼンベルクと同じ。
「しゃべるかもしれない」というだけで仕事仲間を殺すから、仲間の誰からも尊敬されてない。 良いリーダーで、いつも彼の部下の心や体の状態を気遣っている。
常に見張られていて、妻と寝た男と話すことさえマイクに邪魔されてできない。 マイクとその部下、セキュリティカメラをレーザーポインターだけで出し抜く。
間違って自分で自分を撃って、どこかの汚いナチのメスラボで出血死。 砂漠で夜の静けさと頭上に輝く星を愛でながら死を迎える。
妻は浮気して彼から子供たちを取り上げた。 妻は彼と過ごすためだけに別の大陸へ飛んでくる。
物事を解決するには吹き飛ばすしかない。(訳注:トゥコの事務所、ガス、ヘクター、スーパーラボなど) 街の真ん中に巨大な秘密の地下ラボを作る。建築における偉業。
自分が万能だと信じこんだナルシスト。みんなの人生を滅茶苦茶にするしか能がない。 愛しい妻とデートするためだけにガスの仕事を遅らせるロマンティックな人物。

※非モテ(Virgin)とリア充(Chad)と訳しましたが、元のネットミームは一方的に非モテさんをからかう内容ではなく、両方とも等しくネタにされている模様。

ヴェルナーさん上げ過ぎ&ウォルター下げすぎの感はありますが、こうして改めて二人を比べてみると、ヴェルナーが「築く」人なのに対しウォルターは「破壊する」人なんだなーと思います。

建築家であるヴェルナーは仕事自体も「築く」ものですし、彼個人も周りの人間との関係を大切にし、マイクとも友情を築く人でした。反対にウォルターは周りの人間との関係も、彼らの人生も、ことごとく破滅に導いていきます。そもそも作ってるのも人を破壊する「メス」ですし。しかもガスのスーパーラボを建てたのがヴェルナーで、壊したのがウォルターです。

…というわけで、共通点であれ違いであれウォルターとヴェルナーが対になっていることが、視聴者にそれとなく伝わる形で繰り返し示唆されているようです。また、最終話の「Insider Podcast」では製作のピーター・グールドがヴェルナーのことを「もうひとりのウォルター・ホワイト。最も賢い間抜け」と言っています。
(余談ですが、ヴェルナーさん、ポッドキャストで何度か「間抜け」呼ばわりされてましたw。確かに頭はすごく良さそうだけどアンダーグラウンドで生きていける賢さは全然なかったですよね。逃げ出してもなんとかなると思っていたあたり…)

では、この二人が対になっている理由は何なんでしょうか?

この点について製作陣から特になにか明言されているわけじゃないのでアレなんですが、Redditでは「理由はマイク」という意見が多かったです。私もそれ以外にないような気がしています。つまり、この二人を通じて実際に描きたかったのは「この時点でのマイク」と「『ブレイキング・バッド』でのマイク」の変化なんじゃないでしょうか。

二人の対比から見えてくるマイクの変化

マイクはウォルターに出会うまで、私たちが知る限り少なくとも三人の「頭はいいけど犯罪の世界には全く不慣れ」な人物に出会っています。一人は、ナチョに薬を横流ししていたプライスさん。もうひとりはゲイル。三人目がヴェルナーです。

野球カード大好きプライスさん
化学大好きゲイルさん
奥さん大好きヴェルナーさん

この三人と関わった経験から、マイクはウォルターのことも同じような「タイプ」だと思ったのかもしれません。そのせいでウォルターの危険度を低く見積もったのかも。

また、マイクが早い段階からウォルターを嫌っているのも、もしまたヴェルナーと同じような状況になっても罪悪感を感じずにすむよう、あえて距離をとった…という見方もできるかもしれません(いや、もちろんウォルターがクソ野郎だからもあると思いますけども)。

ヴェルナーの最期と、「ブレイキング・バッド」シーズン3でウォルターが殺されかけるシーン、マイクに注目してみると反応が180度違っています。

マイクの表情が辛い…

ヴェルナーの時、マイクは決して彼を殺したいとは思っていなかったし、表情もとても辛そうです。それでも「俺がやる」と言ったのは、ヴェルナーを少しでも苦しませないようにするため、また、彼の妻を逃がすためだったのは明らかです。もし妻が何も知らないままモーテルに着き、ヴェルナーがいないと知れば警察に駆け込むかも。それを阻止するためなら、ガスは妻も殺しかねないとマイクは考えたんだと思います(たぶん実際そう)。

前出のポッドキャストでも、製作のヴィンス・ギリガンが「これってある意味、映画『二十日鼠と人間』(※)だよね。つまり、自分自身でやるのが優しさだった」と言っていますし、脚本のトーマス・シュノーズ氏も「ヴィクターとタイラスが来て何か本当に酷いことをするよりはいいと思った」と言っています。 ※「二十日鼠と人間」のあらすじはこちらがわかりやすかったです。→ 映画「二十日鼠と人間」ネタバレあらすじ結末と感想 | 映画ウォッチ

一方ウォルターの時、マイクはウォルターを殺すことに何の感情も抱いていないようです。だるそうに「残念ながら命令でね」とか言っちゃう。ウォルターの命乞いや「ジェシーを渡す」という申し出にも、嫌悪感を顕にするだけで同情の欠片も見られません。

また、ヴェルナーが妻に電話した時、彼がドイツ語で喋っていて内容がわからないにもかかわらず、マイクは距離をおいて見守っていました。ヴェルナーを信用しているのがよく分かるシーンでしたが、ウォルターの時はガッツリ近くに寄って聞き耳を立てています。全然信用してねえー!

電話するヴェルナーを見守るマイク
近すぎぃ!

この違いは、ウォルターとヴェルナーの性格の違いやマイクとの付き合いの深さが大いに関係すると思いますが、この2つの出来事の間にマイク自身が変わってしまっているという面もあるんじゃないでしょうか。

「マイクは地獄へと踏み出した」

前出のポッドキャストでは、このエピソードでマイクが「次の段階」に進んだことを製作陣が度々口にしています。

マイクが、僕らが初めて見た時の彼(訳注:『ブレイキング・バッド』でのマイク)にまた一歩近づいたのを見るのは寂しい。(シュノーズ)

マイクはジミーと同じく地獄へと大きく踏み出した。(ギリガン)

マイクが誰かを冷酷に殺すのを僕らが見るのはこれが初めて。彼は例の警官たちを殺したけど、あれは復讐だった。でもこれは冷酷無比な『仕事をやらなくては』だった。彼にとって次の段階だ。(クリス・マカレブ = エディター)

ヴェルナーの一件がマイクにとって重要なターニングポイントなのは間違いなさそうです。

もし今「ブレイキング・バッド」でマイクがウォルターを殺そうとするシーンを観たら、きっと視聴者はヴェルナーさんの最期を思い出さずにはいられないはず。そして、マイクがこんなにも変わってしまったことに悲しい気持ちになるんじゃないでしょうか。マイクがウォルターに「中途半端はやめろ」と話すシーンもより意味深くなると思いますし(内容はヴェルナーさんじゃないけど)、マイクの最期も…。あるRedditorさんが「マイクが最期にヴェルナーのことを考えたかもと思うと…」と言ってて、「やめてくれー!!!(泣)」ってなりました。

ヴェルナーさんのシーンに限らず「ベター・コール・ソウル」全般に言えると思うんですが、「ソウル」を観た後に観る「ブレイキング・バッド」はかなり違うものに見えると思います。
「ソウル」は独立したひとつの物語として観ても十分面白いですが、それだけに留まらず、本家「ブレイキング・バッド」に更なる深みを加えてくれるところが本当ーーに素晴らしいと思います。これぞスピンオフ!

ジミーとマイクの物語は違うようで同じ

最後に、ちょっと余談になりますが。

「ベター・コール・ソウル」シーズン4は、今まで以上にジミーとマイクのストーリーが二分していましたが、二人に共通するテーマがあったように思います。

最終話のタイトルにもなったABBAの曲「Winner」の歌詞に「勝者がすべてを手にする、敗者は立ちすくむ」というのがありましたが、これは両方のメインキャラに言えることかもしれません。二人とも勝者であり同時に敗者でもある。二人とも過去には「ルールに従い」正しいことをしようとしたけれど、うまく行かなかった。そして、自分が「勝者」になるためには自分自身の一部、「人間らしさ」を犠牲にしなければなりませんでした。

前出のポッドキャストでギリガンは「マイクはジミーと同じく地獄へと踏み出した」と言っていますし、シュノーズ氏もこんなふうに言っています。

シーズン全体を通してみても、まるで2つの全く違う物語のように見える。けれども実は同じ物語だ。二人とも同じような過程を辿っているところで、違う世界の同じ物語なんだ。

ただ、どちらのキャラについてもまだ完全に「『ブレイキング・バッド』時点の彼ら」になってはいないようなので、来シーズンでさらにどう変わっていくのか、すごく楽しみ(心配)です。

【めっちゃ余談】ヴェルナー役の俳優さんと「ソウル」の縁?

ヴェルナーを演じたドイツ人俳優ライナー・ボック氏は、人気ドラマ「ホームランド」に一度だけゲスト出演していますが、そのエピソードのタイトルが、なんと「ベター・コール・ソウル」でした。(邦題は「裏切りの渦」になってますが)

「ホームランド」S5E5「裏切りの渦」より

タイトルの「ソウル」は「ホームランド」のメインキャラの一人ソール・ベレンソンさんのことで、放映当時は「他局なのにやるね!」と評判になりました(「ソウル」はAMC、「ホームランド」はShowtime)

このエピソードの放映は2015年なので間違いなく偶然なんですが、何かしら縁があったのかなと思ったり。余談でした。